1930〜80年代に活躍をしたフランスの映画監督、ロベール・ブレッソン監督による初のカラー作品で、1986年の日本公開以来ほとんど上映機会がなく、ソフト化もされていない作品、『やさしい女』がデジタル・ リマスター版で劇場公開されました。フランス 1969年公開の映画です。

 

古い時代の映画は、インスピレーションを得るための大切な存在です。

ロベール・ブレッソンによる『やさしい女』。何よりも知性を感じました。景色、言葉、音楽。ブレッソン監督らしく寡黙で多くは描かれてないのに、作品の隅から隅まで「意味」が散りばめられてる。寡黙ではあっても決して引き算ではなくて、絶妙な足し算の映画。

人の心理を丁寧に掬いとって語り、そのうえで考える余白も提示してくれる、そういう映画は、鑑賞を終えても作品を越えて受け手に心地よい考える時間を与えてくれます。

自死によって先立たれた若い妻と、それを回顧しながらも妻の死の原因を計り知れない夫という物語の構図。そこで描かれているすれ違いは性別や年齢だけではない、2人の相反する人物の、人間としての心の在りかた。

2人の夫婦以外にも、パリの国立自然史博物館と現代美術館、ポップ音楽とクラシック音楽といったさまざまなカタチで明示される、世の中にある相反する事象。夫が国立自然史博物館と現代美術館とを比べて「全然違うね」と言った言葉に対して、妻が「Non (同じよ)」と返しているシーンがとても印象的でした。

言動や行動の奥にある本質を求めたがる妻。ごく自然な社会的価値観や倫理観を優先したがる夫。片方に肩入れするということはなくて、どちらの気持ちも痛いほどに分かるからこそ考えさせられます。

 

物語のなかで夫が質屋を経営していたいうこともあり、映像的にもとても美しい作品。質屋の内装はもちろん、食事の場面でファイアンスの白釉陶器のピシェや Gien (ジアン) の柄付きのテーブルウェアセットが使われていたりと、1960年代のパリの暮らしぶりをを見てるのも、とても愉しかったです。

映画の数シーンでほんの短かいあいだ、けれどもとても印象的に流れる音楽も素敵。Jean Wiener (ジャン・ヴィエネル) という、自分も大好きな、当時のフランスのクラブシーンや映画で活躍した音楽家によるものです。

1960年代のパリの暮らしや文化を楽しみつつ、国や時代を越えて心に訴えてくれるものがある、そんなとても魅力的で稀少な映画だと思います。