ワイングラスという響きを聞くと背筋が「ぴんっ」と張る。
ワインという言葉には優美な響きが漂っているし、ワイングラスそれ自体が、飲み口も持ち手も薄手で繊細な印象です。同じワインを別々のカタチのワイングラスで出したら一緒のワインだと気づかれなかった、という逸話があるくらいなので、その繊細さはその道のプロの人にとって本当に大切なものなのだと思います。
記念日や誕生日に背筋を伸ばして飲むための繊細なワイングラスにも惹かれるけれど、普段使いに気軽に使えるワイングラスがあっても良い。
19世紀末頃まで宙吹きという製法で、フランス各地のガラス工房で作られた手吹きのグラスには、そんな想いを満たしてくれるラフに接せられる使い心地の良さがあります。
ビストロで使われていた普段使いのグラス
フランスでは当時の手吹きのステム付きグラスのことを、”ビストログラス” と呼びます。
言葉の通り、大衆食堂であるビストロで、ワインや水のサーブなど食事のさまざまなシーンで使われていたことからそう呼ばれます。大きめサイズは主に水用、中庸サイズものがワイン用として、当時は主に使われていたようです。そしてそうした普段使いで使われていた背景があるからでしょうか。厚みがあって丈夫なグラスからは、肩肘張らない親しみやすさを感じることができます。
アンティークとしての美しさ
手吹きグラスだからこそできる不均一で優しい曲線やガラスのゆらぎには、アンティークとしての美しさもあります。20世紀初頭には機械工業へ移行のなかでやがて姿を消すことになる各地のガラス工房の職人による、当時の手工業文化の一端が垣間見えます。
今の暮らしに気持ち良く馴染む、文化的な背景をもつ魅力的な佇まいのモノを探す。少し骨の折れる作業ですが、アンティークと付き合っていく1番の愉しみです。フランスアンティークの定番の1つでもある手吹きのワイングラスからは、それを自然に感じることができます。
普段の食事に取り入れるなら、テーブルワインにはもちろん、アイスティーやジュースを入れると手吹きグラスゆらぎがとても綺麗です。あるいはスムージーを入れてみるととろっとしたグラスの厚みが愉しめます。
ステムのついたグラスは底から水が滴ることがないので、コースターがなくてもテーブルで安心して使えますね。そんなふうに暮らしに取り入れたときにふと気付ける、用の美も備えた器。