Item / Pottery

Factory-made Slipware Child’s Mug

 

1810〜40年頃の英国より。

近代英国の陶器製造の中心地スタッフォードシャー州近郊の窯々は、18世紀半ば頃から数十年をかけて釉薬調合と施釉技術の発展に挑み、それまでかなり限られていた陶器製造時に表現できる色の選択肢を大幅に広げることに成功しました。そうして造られた多種多様な色彩と柄の組み合わせによる施釉陶器は、当時、市井の人々の家庭や村の居酒屋において、生活雑器として日常的に幅広く用いられたそうです。また北米への輸出用陶器として好まれたことも知られています。

それら一群は英国内でも考察の歴史は浅く厳密な統一名を持たないようですが、今ではディップウェア、あるいは工場製スリップウェア(Factory-made Slipware)と総称されることが多いようです。個別で存在の有名なモカウェアも、ディップウェアに含まれる一様式です。

当時の英国人がもつ近代的感性の粋が詰まったプロダクトとしての器胎の構築美が、ある種の安心感を担保しながら、施釉においては朗らかで明るいフォークロワな魅力を愉しめることが、個人的にこの辺りの陶器に惹かれる所以です。もちろん、窯の高い専門性と技術力が見てとれる施釉陶器も存在しますが、他方でどこか素人的で気の抜けた仕事も散見されます。そうしたいっさいを俯瞰で眺めたとき、不思議な不均衡にはなんとも言えない心地良さを感じてしまいます。

生活雑器だったがゆえに破棄・破損により散逸してしまったもの多いのですが、殊に琴線に触れる造りの器を幸運にも見つけたときには、手元に寄せて紹介するようにしています。

今回掲載の品は、北米のアンティークディーラーから譲ってもらったチャイルズマグ。

器全体を螺旋状に覆った当時も人気だった意匠です。まさに、精密な造形と緊張をほぐすような緩やかな施釉の混じり合う具合に惹かれました。内側が白釉であることは飲み物が注ぐことがきちんと考えられており好ましく、当時の子供用とされるカップですが、日本人の大人の手のひらに収まる程度の中庸寸法は、実用において大きすぎることも小さすぎることもない、今に絶妙な設計だと感じます。

 


 

口径7.2 / 奥行き9.2 / 高6.8cm

(ご売約済)

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