Item / Pottery

Pichet de Cul Noir vers 1900

 

パリの馴染みの骨董屋で見つけて、おっ?と惹かれたキュノワールの水差し。

なんと言っても寸法が良いですね。容量にして約500nl程。花器に留まらず食器としての活用イメージも広がるような水差しは常々探していますが、存外見つけ辛く、瑕疵があっても迷うことはなく手にとりました。ヘアライン2ヶ所を漆で継いでいます。キュノワールと漆の相性がとてもよく、違和感のない仕上がりです。

アボガドのようなころんとして愛らしい姿形。時代がそこまで上がらないことも、この器においては寧ろ魅力に映り、雑味のない中庸な佇まいは、現代の暮らしにも自然と溶け込んでくれると感じます。思い浮かぶのは珈琲を淹れる日常景でしょうか。

1900年代初頭頃作陶。

 

キュノワール(Cul Noir)

柔らかな赤褐色や淡黄色の陶土を素地として、「表面」を錫釉により白や灰色に、「背面」を酸化マンガンを含む釉薬により濃度を調整しながら飴色や漆黒に焼成させたフランス北部の古い雑器を指してそう呼びます。

キュはフランスの卑俗な口語で尻のことで、転じて(瓶などの)底部の意味があります(例:cul de bouteille = 瓶底)。ノワールは黒色のこと。キュノワールとは、背面が黒い陶器のことを雑器らしく俗語で表わした工芸用語です。

錫釉よりも比較的安価で、かつ耐熱性(直火ではなく主には窯焼き)を確保するための熱膨張率も低いという素材の性質が、調理用陶器としての実用性を高めたいという民意とも合致し、18世紀初期にノルマンディー地方ルーアンで用いられるようになったマンガン釉は、やがて表面の美観と全体の費用削減を折衷させた現在「キュノワール」と呼ばれる作陶方法を確立。ノルマンディー近郊から、ボーヴェ地方(現在のオワーズ県)やロワール川流域に至るまで伝播し、各地で作陶されるようになりました。

※キュノワールの主な作陶地域(Click!)

市井の人々に日常使いをされていた器。ですがそれが故、100年を越える時間の経過のなかで、生活道具として少しずつ破損、散逸していて、殊に実用性の高い皿類については、当時の生産数に比して現存個体数はあまり多くはありません。

作陶期間は18世紀末〜20世紀初頭頃。

 


 

口径10 / 奥行12.5 / 高11.4cm

備考:
注ぎ口付近に約4cm、ハンドル付近に約8cmのヘアラインがあり、漆で継いでいます。
外側の黒釉と漆、内側の貫入と漆は何れも同系で色が馴染んでおり、目立つものではありません。

(ご売約済)

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