Curiosité / Item

Coffin – étui à pierre à faux

 

19世紀、フランス・アルプス。単木手彫りの砥石入れ「コファン」です。

当時の農夫や羊飼いは、彼らにとって最も必須の生活道具であったナイフと共に、すぐに鈍る刃先を研ぐためのコファンを、しばしば内部を藁や草を詰め湿らせて一緒に携帯したといいます。

深い色目と装飾性の調和にぐっと心を掴まれました。

正面の大きな花文は、太陽の光条を象どったロゼット文様として古くからヨーロッパで親しまれてきましたが、それを地域の工芸品として独自に昇華したことで知られるのが西アルプスの山地文化圏です。同地では農耕ができない厳しい冬籠りの時期、女性は羊毛紡ぎをし、男性たちはさまざまな手彫りによる木工調度品を作ったといいます。

側面には爪痕や狼の歯跡にも例えられる木地を細かく削り落としたチップカービング。四角の胴部に三角の小さな尖りを加えているのは、作業時に地面へ突き刺し立てて用いることを想定していたためです。どちらも地域の特質を伝える意匠性です。

恐らくは胡桃染めによる濃色仕上げに長年の手擦れ・酸化の加わった古色。針葉樹の材との親和性があり、心地よい深みとやわらかな朴訥さが自然に混じり合っています。

生活の道具であることを保ちながら装飾性を帯びた、アールポピュレールの豊かさを物語る佳品です。

 


 

約 幅7.5 / 奥行き7.2 / 高26.2cm

背面舌板(本来ベルトに留めるための部位)に穴があります。
以前の持ち主が壁に飾るために開けたものです。

(ご売約済)

Related posts

テキストのコピーはできません。