19世紀初期の北フランスで、射撃大会のために作られようになったことが発祥と言い伝えられている番号付きの陶製カップ。若い数字から順に大きな寸法で作陶され、大会表彰の際に成績上位者が、順位に即した番号のカップに注がれたワインを飲んだのだそう。
同時にこの種のカップは、ライン川近郊の居酒屋や農場跡地で大量に発見された記録が残っています。大会の成績上位者用としてはかなり大きな番号のカップが存在することからも分かるように、発祥の逸話は1つの説で、実際には個々人のカップの識別が必要となる多様なシーンで用いられたようです。
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前述の発見場所を踏まえるなら、村酒場の客用、大規模な農場の日雇い労働者用というようなかたちで。
地厚の陶胎にアラビア数字というと、他にも宿舎や修道院で使われてた業務用の器が知られていますが、通じるものがありますね。
骨董商目線では、割れや欠けにより仕入れを諦める頻度が高いという印象を抱いているのですか、そうした実情も、田舎の民衆の日用雑器だったと考えれば納得できます。
お世辞にも絵付けが上手とは言えなかったり、筆致が滲んでしまっている個体が比較的多いことも、そんな文化背景故なのでしょう。
特定の窯のオリジナルというわけではなく、北フランスで、19世紀に流行した1つのスタイルです。過去に特定できるものでサンスニーという窯のファイアンス製、リュネヴィル窯の半陶半磁製、他にストーンウェア製の同種のカップを見たことがあります。
写真の個体は窯不詳、無刻印の半陶半磁製。久しぶりに手にしました。
かつての生活の気配、健やかな美しさ。
※写真の品は完売しました。