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中世末期、ブルターニュ女公の紋章

 

その特徴的な紋章は、ブルターニュ公国の女公であり、後にフランス王国の王妃ともなったアンヌ・ド・ブルターニュ(1477 – 1514年)をしるすものです。

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フランス王家を象徴するフルール・ド・リス(アヤメの花)を全体に配し、紋章部分は対になるようにブルターニュ公国の象徴であった「エルミーヌ(オコジョの毛皮を様式化した意匠)」が彫られています。

アヤメの花と同様に純粋さを表すとされるオコジョ。伝説では、ある狩猟の日にアンヌは、犬に追われていながら泥池を前にしたとき逃げることをやめ立ち向かうことを選んだオコジョに遭遇したとされます。白く美しい毛皮を汚すくらいであれば死をも受け入れる姿が、「Potius mori quam foedari(恥より、むしろ死を)」の精神として彼女の人生観に影響を与えたそうです。

やはりフランス製とだけ呼ぶのは敬意に欠けるように思います。ケルト諸語圏であり、海の国であり山の国でもある歴史的なブルターニュ(Bretagne historique)の古物です。

主題がある時代や地域に結びついているという確信は物語を鮮明にし、物の吸引力を一層強めます。美しさに理屈はいらないというのは真理かもしれませんが、一方で銘や箱書きに喚起させられて想像をできるからこそ人間は人間なのであり、二つのあいだに絶え間なく働く緊張関係にこそが、古物と携わる醍醐味があるのではないでしょうか。

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