夜明け前の蚤の市で、何十と積み重なっていた似た手の白皿の山を掻き分けて、選ばせてもらった一枚。
工芸品にははじまりがあり、古物には余韻があります。リム縁の輪線状の釉剥離と見込みのささやかな刃物痕。品のある釉調と造形に露出した地肌が混じり合った景色に、人の作為と自然な古色の邂逅を見ます。
専門的には、このような経年変化の発生は、限られた地元の資源を生かしながら美観を追求して生まれた前時代のファイアンスフィーヌが、多孔質で緻密度が低い繊細な淡褐色の胎とやわらかな鉛釉の組み合わせによりできており、摩耗しやすい性質をもっていたということに端を発しています。品質の安定と量産化を目指した半陶半磁器が普及していくなかで軽減していく癖ですが、胎土の半磁器化が未成熟であったり、釉の配合を前時代に倣っていた、今回のような一部の時代・窯の過渡期の半陶半磁器では、起こるときもありました。後年の安定化した半陶半磁器とは質を異にした経年変化です。
何より使い手が生活のなかで長く大切に使い込んだいう事実は愛おしく、美しいと感じられたからこそ、物語が心の奥のやわらかな部分にまで届いてくれます。なんてことないようで印象深い一枚でした。
年代|1870年代後期頃
生産|フランス、ジアン社
素材|半陶半磁器/テール・ド・フェール
寸法|径21cm
