ドイツ、ライン川畔で中世13世紀頃から近世にかけて発展と変容をしてていったライン炻器からさらに遡ること100〜200年程、11〜12世紀頃に地域で作られただろう前ライン炻器とも呼べる、食料の調理や貯蔵に用いられた硬質焼成の陶製壺です。
手捻りの整形によるプリミティブな姿形。把手も注ぎ口もない簡素な作りは、当時の一般的なものでした。型が用いられ、装飾も豊富で、組織体制の整っていた洗練された古代ローマの工芸品と比べれば隔世の感はありますし、近年までの定石であったゲルマン民族大移動以後の中世ヨーロッパの「暗黒時代」観と重ねる向きもあるかもしれません。
ですが宗教的儀式や上流階級の使用をほとんど想定していないだろう庶民の日常生活で使用される雑器からこそ捉えられる人間の素朴なあたたかさがあるように思いますし、未来の周辺地域の発展を知っている身としては、帝国崩壊後に技術の継承が一部途絶えたなかで、限られた資源で庶民の実用的な需要に応じ続けていただろう数百年間を経たうえでの、まさに中世盛期に先立った「文明の地域的・構造的な転換」としてのあわいの時間に、物を通して想い馳せたくもなります。
個別には、何より欠け方に惹かれたのもあります。それがあってこその品を感じました。
無垢な作為と、ほんの少しの自然な欠損と。