心に響く古布は、見つけ難くも常々探しているモノの一つです。17世紀末〜18世紀初頭頃、フランスの刺繍小品。
染料が抜けて絹は光を失い、針目も緩みながら、寧ろ時間が与えた質感にぐっと惹き込まれました。
「Ste Jeanne – Reine de France」の銘から、ブールジュにおいてフランシスコ会の女子修道会を創立し、フランス王妃でもあったジャンヌ・ド・フランスがモチーフとなっていると判ります。フランス中部、ベリー地方(ブールジュ周辺)では16世紀初期の逝去直後から、永く聖女として崇敬の対象でした。
1742年、カトリック教会によってその聖性を公式に認められて以後は、聖女ジャンヌの版画・聖像画が全国各地に流通するようになったようですが、そうした定型と見比べると、今回手にした小品は図像が定型に依存しておらず、ぐっと素朴で地方的な美観を備えています。それよりも古い時代に、地域周辺の修道女、あるいは在俗の信徒によって、家庭やちいさな礼拝堂内での信仰のために刺された私的で敬虔な作と感じます。
祈りの気配は意味に留まらず、手の韻律として届き、人が時間に向き合った跡がやわらかに琴線に触れます。明瞭な主題と失われた輪郭のあわいにある、心地よい関与の余地。歴史や文化を憧憬しながら、歳月を経てこそ心惹かれ和らぐ、そういう古物との邂逅が、自分にとってはやはりかけがえがありません。
年代|推定1680〜1730年頃
生産|フランス中部 ベリー地方周辺
寸法|幅23.5 高29cm
