建築、あるいは祭壇装飾の一部だっただろう小さな天使の石彫。
古風で地方的な造形の素朴さに惹かれました。
欠損もあり確たることは言えませんが、右手は人差し指と中指を交差させた、西方教会における祝福の仕草のように見えます。左手に携えているのは巻物です。神の言葉や啓示、救い。天使の役割を示唆しています。
そんなふうな神学的な意味は、けれど書いた側からどんどん朧げになっていきました。
この天使から感じとれるのが、直接的な宗教性というよりは、寧ろそれが慣例となり、身体化されたことによる日常生活との調和であり凪だからなのかもしれません。
先祖代々、家業として続けてきたような石工や彫刻職人による、型に倣った反復の手仕事。誰かが石を選び、誰かが発注し、誰かが彫り、どこかの壁面や祭壇に据えられ、何十年、あるいは何百年も見られたり、見過ごされたりしてきた。当時それは信仰実践である前に、仕事であり、地域社会の必要であったはずです。
希釈されたというよりは、生活のなかに深く沈み込んでいった意味に浸ります。地方の教会や修道院、それは日本の神社仏閣に置き換えて考えてもよいかもしれませんが、地域単位で日常が巡り、作家ではない職人の手仕事が何世代にもわたって蓄積されるという構造は、ことにこうした公的な建築の装飾領域においては、今の時代に(そして近い未来にも)、殆ど再現され得ないように思います。
脇役であり、建物の一部としてなんと無しに残ったのかもしれません。けれどそうしたものに、ある時代の厚みが宿っていることがあると感じます。古い宗教美術としてではなく、かつて人々の暮らしにおいて当たり前にあった生活と信仰のあわいのささやかな断片として、眼前の天使と穏やかに向き合います。
年代|推定17世紀頃
地域|フランス北部〜南ネーデルラント
寸法|約17cm
