専門で生業とする方々に比べれば見てきた数は限られますが、英国ウィンザーチェアのなかでも、ウェスト・カントリー(イングランド南西部、コーンウォール〜デヴォン)の作は、殊に心惹かれるひとつなようです。
きっと琴線に触れるのは、地方工芸品がもつ癖や匂いのようなもので、1800年代に至って一定分業の気配はまといつつ、大量生産ではない小規模で分散した家内制による職人の手跡を感じます。反復によって生まれた細部の所作、土地に住んだ人々の息遣い。ロンドンを含むテムズ川流域圏からは離れた地方の日常で育まれただろう固有の美質があります。
素っ気なさが寧ろ魅力として映る直線の座前縁に、轆轤ではない削り出しによる不揃いな背のスティックは素朴で、バックボウ前部に見られる差し込みの木ダボにも地域性がのぞきます。一般的なエルムではない、果樹材やシカモアと思われる木目が静かな座面も上品です。
どんなものであれ、飾り気の少ない作りには常々惹かれますが、無味無臭を求めているわけではなく、むしろ削ぎ落としたときにも残りふわっと立ち上がってくる土地の詩情に、機微に耳を澄ませていたいと思います。
風通しがよく、たおやかな佇まいでした。
年代|1800年頃
生産|イングランド
地域|ウェスト・カントリー(南西部)
寸法|W600 d490 H990mm
