Diary

クストディア財団「ヤコブス・ブレル」展

 

パリ7区、クストディア財団による、17世紀、黄金時代のオランダ人画家ヤコブス フレル(1654~1662 年頃に活動)に焦点をあてた絵画展へ。個人的にはここ最近で1番に心身に沁みた展示で、最終日前日から2日間、駆け込みで立て続けに訪れてしまいました。

約45点程という判明している現存作品より22点。1人の画家の静かでやさしい眼差し。何より室内構成は精妙でした。数部屋に仕切られた天高のちいさな展示室には、各々が均衡を保ちながら自然なリズムで飾られており、パリの喧騒を感じない節度ある観覧客のさざ波に揺られて、緻密な展示順や間合いのおかげもあり、それぞれの作品と心地よく向き合えました。

 

 

同時代の関連資料として飾られたグラヴュール等の小品(Click)にも惹かれ、また最近気になり画集を手に入れていたブレーケレンカムの油彩画(Click)に実物で触れられたことも、不意の幸運でした。

展示全作品の個別解説や、情報が乏しいなかで調べ上げられたフレルの生涯を記したガイドは充実した内容。古い印刷物の様式を踏襲したタイポグラフィという細部まで美しかったです。

それに持参した踏み台にちょこんと立って単彩模写を連日続けていた老マダム。上質なシルクブラウスに銀縁眼鏡という着こなしも瀟洒で愛らしかったな。

 

 

マウリッツハイス美術館共催で「フェルメールの先駆者」という惹句の巡回展というと背後の商魂を邪推することはできそうで、同時に自分では及びもつかないくらいに堆積してるのだろう知識の片鱗に触れながら、何にも増して感じたのは画家にたいしての愛情でした。

控えめでエレガントなノーブルは、ヨーロッパのエスタブリッシュメントにきっと残っている。そんなことを、こうした真摯で親密な展示の在りように触れていると、(対岸どころか何千何万キロと離れた遠い場所からですが)願い信じたくなります。

仕入れ仕事後の訪問だったにもかかわらず、肩の重さや足先の痛みがすうっと引いて癒されていくという稀有でおだやかな時間が過ごせました。

規模は比較にならずとも、近しい時代の物々に魅せられアウトプットをする身として、こんなふうな仕事をできるように日々精進しよう。そんなふうに気も引き締め直せたところです。

 


 

Jacobus Vrel. Énigmatique précurseur de Vermeer
à la fondation Custodia
du 17 juin au 17 septembre 2023

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