フランス、パリを夜明けごろに発ち、泊まりがけの遠征。
ユーロスターの固い座席に身体を埋めて疲労でうつらうつらしていると、すでにベルギーを通過していて、走る列車の色使いの変化でオランダへ入国したことに気づきます。
この世は神が作り、オランダはオランダ人が作った。有名な一節を思い出しながら、壮麗なレンガ造建築による都市景観や、タイポグラフィの洗練に目をくばります。なにより相変わらず背が高い方々ですね。そんなふうにして国を跨いでの古物巡りは始まります。
「デルフト焼き!」
「ライン川!」
「サカタ!」
エトセトラ。
工芸品について言えば、飛び交う主要用語はフランスとはやや異なります。18世紀で比較的新しく、さらに古い時代の作りが珍しくない品揃え。国としての繁栄期(黄金時代)は熱心な研究対象となり、それが骨董業界にも現れ出ているのでしょう。やはり発掘文化が豊かです。
物々と向き合い、一言で全てをわかったように錯覚してしまいそうになる言葉の魔力に抗い、同時に言葉を起点に想像力を働かせていきます。街を歩き、空を見上げ、食事を味わい、そういうことを積み重ねて。
2日程のわずかな滞在でしたが、オランダ、フランドルの風土、或いはその影響下にあるフランス北部の気配を感じながら、よい仕事ができました。
選んだ品々が店の顔でも、選ばなかった凡ゆるも含め等しく愛しみ眺めることこそ、自分が生きるにおいてはずっと大切だから、現地を訪れて得られる学びは掛け替えがありません。
小説を綴るような、そんな理想にはまだまだ遠いですが、実態があり雄弁な古物同士の響きあいに助けてもらい、店を通して伝わる風景の解像度をすこしづつでも高めていけたらと思います。
それにしても、パリに部屋があるのにパリにほとんどいません。国、地域を跨いでの泊まりがけ遠征は4夜連続。もうすこし続きます。あれまぁ。