それは世界中のディーラーが集まる業者市や、国内最大規模として知られるような蚤の市ではありません。この仕事をしていてすら、訪れた際にふわふわと浮遊感を覚えるような、フランスの地方に根ざした催しです。
数年前まで名前すら聞いたことがなかった小さな村での年に一度のブロカントで、夜明け前4時から古物漁り。
暗闇はうごめき、ウブダシ屋、骨董屋、あるいは不用品処分をする個人に至るまで、さまざまな売り手から、家具が、装飾品が、ん、ガラクタが?いえいえ、買われていきます。
オーバーサイズのブルゾンにヘッドライトを被り完璧な出立ちのムシューを横目に、一生のうちで一度もすれ違うことがなかったかもしれない人々が、ここで生き、暮らしを営んでいることを想像します。主催者が変わることなく30年以上続いている1日。自分は、溶け込んでるというよりは、ほんの少しだけおじゃまさせてもらっているにすぎません。
テーブルの上には土地で作られた気候風土を纏った品々も多く並び、ここが古物が市場に流れるにおける始まりに近い場所だと気づきます。
時代が違えば、自分はそれが作られた現場で老齢の職人を眺めいたのかもしれない。そんなふうな隣人感覚を自然と覚える瞬間は、遠い異国の古物を扱う身として得難く希少です。
収穫は?
価値の定まった人気の品や骨董的評価の高いユニークピースはほとんど手にしていないです。
けれど漫然と椅子に腰掛けてドットの集積たる写真で見ていたなら、職業的な慣れでなんてことないと思ってしまったかもしれない物々の尊さを現地の人たちに改めて教えてもらい、自分にとっては愛おしい仕入れができたように思います。