Diary

ヨーロッパ旅日記 2024.11.19

 

南フランス、明け方の8時。寸分の狂いなく時間きっかりに扉がひらいて、業者たちのマーケットは始まります。

足早に駆けていく人々。自分はといえば、彼らを横目にまだがらんどうの仮設コーヒースタンドへ向かいます。パリにいれば行きつけの店でショソンオポムでも事前に買っておくのですが、この街ではなかなかそうもいきません。紙箱で納品されたぱさついたパンオショコラを片手に、カプセル式のエスプレッソを冬の空気で冷めないようにくいっと流し込みました。

そうして歩き始めれば、いつものようにやさしくこちらを迎え入れてくれる愛らしくて野暮ったい南仏訛りと、鮮やかな緑・黄色の施釉テラコッタの器々。バカンスの喧騒はとうに落ち着いていて、内省的な気配は冬籠りを予感させます。

明るさや朗らかさについて語られることが多いですが、季節のコントラストもまた、この地を作りだしています。

ヨーロッパ中からプロが集まり活況を呈していたマーケットは、ここ数年で少しづつ均衡が崩れ様変わりしてしまいました。分かりやすく物が目の前にはもう転がってきません。けれど多少の困難は、あくまで市場経済的な問題です。

古物は所有していた個々人の人生を纏っているのだから、自分が自分の人生を歩いて耳を澄ませさえすれば、親密なささやきも聴き逃すことはないんだと実感しながら、これからも向き合い関係を深めていく土地を噛み締めました。

ほんの2日間にも満たない南での時間。普段は1週間以上の滞在をすることが常ということもあり、今回は会えなかった友人たちもいましたが、抱きしめたくなる切なさがあるから、また来年も戻ってこようと思えます。

いつだってパーソナルな旅があり、それにハードな旅程の苦労も報われて、過去に暮らしを彩った、或いはなんということはなくとも自分が共感を覚えた物々を、しっかりと手元に寄せられたと思えているところです。

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