Diary

ヨーロッパ旅日記 2024.11.25

アンコール。照明は弱まり、柔和な光のなかから浮かびあがり聴こえてくるブラームス、イ長調のインテルメッツォ。

死があるから生は鮮やかで、歳を重ねたときに、こうした時間を振り返れるのはきっと良い人生です。ふと彼が書いた一節を思い出し、終演後のメトロのなかでスマートフォンに書き残していたメモを読み返しました。

「はじめに静寂があり、静寂から音楽が生まれます。そして、音響と構造からなる実にさまざまな現在進行形の奇跡が起こります。その後、ふたたび静寂が戻ってきます。つまり、音楽は静寂を前提としているのです。」

パリ公演に訪れたブダペスト祝祭管弦楽団によるブラームス・プロ。ピアノコンチェルトのソロはアンドラーシュ・シフ。

オーケストラの音色も魅力的でした。純然たる技術や巧さ以上に、継ぎ足しを続けるカレーライスのような、その地に堆積した過去に生きた人たちの匂いと営みを醸し出す音に惹かれます。

グローバル化が進み、世界中のオーケストラが均質化したと言われて久しいですが、連綿と連なってきた80年代以来の確かな楽団固有の艶やかさ、あるいはマジャールの民族的気配。殊に、古典楽器が本来もつ雑味を美質として削ぎ落とさず包みこみながらしなやかに歌う弦セクションは白眉でした。

創設以来40年間変わらない音楽監督イヴァン・フィッシャーと単年契約のオーディション制である楽団員(今もそうなのでしょうか)。近代的な作法と現地固有の語法が混じり合う、西洋音楽の1つの文目を聴きました。

漸く仕事がひと段落しそうになると、コンサートスケジュールを調べるのは旅の御決まりです。

その週末はカナダから訪れていた楽団の土曜日夜公演を見つけましたが、溜まっていた疲労に直前で断念して、それであればと日曜日夜公演を探してみたらハンガリーからの訪仏。滑りこみで買った当日キャンセルのS席は、前から3列目真ん中で65ユーロ。そんなことが当たり前で、パリはやっぱり西洋文化の交差点ですね。

 


 

Johannes Brahms
Danse hongroise n°1 / Concerto pour piano n° 1 / Danse hongroise n°11 / Symphonie n° 1

Budapest Festival Orchestra et Iván Fischer / András Schiff, piano
à la Philharmonie de Paris

 

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