Old European Cutlery

14-15th Century Latin Spoon

 

年代|14世紀〜15世紀世紀半ば頃
生産|ムーズ川流域(リエージュ司教領/ナミュール伯領、現ベルギー南部)起源
素材|ラテン/錫引き
寸法|17.7cm

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ギヨーム・デュファイやジル・バンショワの多声音楽を聴いていると、心が洗われるように気持ちが和らいでいきます。そこにあるのは、少ない声部が精妙に絡み合い、複雑さを内に保ちながらも余計な音を足さない、必要な関係が正確に結ばれた響き。語ろうと努めればそんな説明になるのかもしれませんが、実際には言葉は先立たず、ただ身体の側から理解されるものに思えます。

ささやかな一本のスプーンにも、ルネサンス初期のポリフォニーに通じるような機微が宿っているようなことがあるでしょうか。古物と向き合い続ける理由は、語彙の外側で作動する知性に触れたとき、心がまっすぐに揺さぶられるからです。

14世紀末〜15世紀初期頃に作られたものです。確証は持てませんが、もう一世代さかのぼる可能性もあります。

椀部は薄く、柄が細く伸び、意匠は先端に小さくあるだけ。飾りたてず、必要最小限です。佇まいの奥にある「間」が奥ゆかしく、また土中で育った古色による時間の余韻にも惹かれます。

素朴な美しさに直観的かつ現代的に心を動かされて、次に働くのは、当時の人々が何に価値を置いたかということへの想像力です。命の重さすら異なった時代の、規格化や量産による可視化された精度から距離がありながら、未成熟では括れない別の節度と洗練。かつての職人が勘所でとらえ、現代には語彙が存在しない思念や感情、論理によって支えられたモノづくりの一旦を垣間見る気がします。

打ち出しによる鍛造。材はラテン(真鍮系の銅合金)。製作当時は錫引きされていたと考えられ、土中で錫層が剥落して地がのぞいています。

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