Old European Cutlery

17th Century Bronze Spoon

 

年代|17世紀
生産|イタリア半陶
素材|青銅(ブロンズ)
寸法|14cm

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北西ヨーロッパ(英・仏・蘭・独/以下、北西欧)製のスプーンとは語彙が異なる旋律と響きに心惹かれます。

17世紀、イタリア製の一本。

材は青銅。ごく微細な金色の筋は、火鍍金の痕跡と考えられます。北西欧では、宮廷において銀器文化への志向がつよく、中間層が用いた黄銅器でも、錫引きを施して銀的な見えがかりを求めるような傾向にありました。他方でこの一本からは、地中海圏らしい、銀に留まらず金で富を表す美意識が読みとれます。

椀部の造形にも、差異があります。

北西欧では、椀部は真円→イチジク型→水平縁の楕円型へと推移していくことが知られています。その発展が、中世後期頃を起点にして始まっている(と考古学的に推察されている)ことは、ゲルマン民族大移動期を経たうえで、素材・工房の再編を伴う文化の刷新があった事実を示唆しているようにも思います。

一方、地中海圏では、現在のような楕円型が古代から一般的だったことが、出土例を見ると判ります。古代ローマから、中世、ルネサンスへと、イタリアでは都市の鋳造・金工技術には連続性があり、知識は技術書や工房の実践を通して継承されたようです。

枝の先端には馬蹄。北西部にも波及した意匠ですが、ルーツはイタリアです。

すでにルネサンスの栄華を終え、政治・経済の中心は北西欧に移りつつあった頃ではありますが、工芸と美術における古典期の語彙の残存を感じながら、時代の変奏に耳をすませます。

 


 

イタリアでは食事に小さなフォークを常用し、
指で料理皿に触れるのは無作法とされる。
銀のフォークは紳士が使う。

——トマス・コリアット『粗製旅行記』(1616年)

 


 

カトラリーの専門文献では紹介のスプーンと同型の枝のフォークも確認ができます。当時のヨーロッパ大陸においては、先んじて導入された食卓の作法ですね。中世的慣行からの変化を踏まえると、裕福な都市の富裕層や聖職者のような人々に用いられた、穏当で節度ある日常道具と捉えられそうです。卑俗な絢爛さはなく、時間が金属に与えた静けさが、質と造形の趣を柔らかく自然に浮かび上がらせます。

引用は、フォーク持ち(Furcifer)の渾名で揶揄われたという伝承をもつコリアットの進言より。

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