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英国とパリ広域圏のあわい

 

歴史的な文脈や地域的な慣例が詳らかでありながら、なお一様に括ることのできない過渡期の揺らぎを内包した古物に惹かれます。経年の変化というよりは、この場合そのものが生まれた瞬間から宿していた時間性への関心です。

フランス北西部、恐らくルーアン文化圏で作陶されたティーカップ。

素焼きの柔らかな胎土にマンガン釉を施した構成は、18世紀以来フランス北西部で一般的だったキュノワールの伝統に連なるものですが、一方で造形や釉調からは、農村の質素なスープ碗には括れない、都会的な洗練が見てとれます。特徴的な器形はティーカップ、あるいはブイヨンやティザンヌといった滋養や薬効を嗜むためのカップを指すフランスの古語「ジェニユー(génieux)」の名で、当時のマニファクチュールのカタログにも記載があり、日常ににじむ節度を感じさせます。器胎全体を艶やかな漆黒で覆った作行きは、キュノワールの系譜にあるだけでなく、英国スタッフォードシャーのブラックウェアがパリ広域圏のクレイユやモントローといった窯へと伝わる過程で生まれた、フランス的な亜種としても捉えられるでしょう。

地方の低火度土器・陶器の作法に依拠しつつ、18世紀後半の都市の記号を取りこみ、それでもなお田舎的な素朴さは手放されていません。英国とパリにはさまれ、工業化された工芸品の流入における中継地点でもあったルーアンを中心としたフランス北西部という地域性に、変革期1800年頃という時代性が相まってこそ作られた、趣きある佳品でした。

 


 

年代|1800年代前期
生産|フランス
地域|北西部(ルーアン文化圏)
寸法|口径9 高6cm

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