オールドバカラ、そんなふうにひと括りに記号化されることも多いですが、実際には年代ごとに各々の美質や纏う気配があります。
1950〜60年代頃のバカラ。量産と流通(加えてコンプライアンス強化)という世界的な潮流が同社にも押し寄せ、作りの簡略化が少しづつ行われていたことが個々のプロダクトを見ると感じる時代でもあるのですが、そうしたなかでモダニズム成熟期を迎えたなかで生み出されたバカラテーブルウェアについてだけは、個人的にごく心惹かれます。
工芸と工業の狭間。職人による成形過程とプロダクトデザインの美しい均衡。
カタチの高い精度は白眉。洗練優美を湛えながら、端正な佇まいがあります。
またリーデルによるエッグ型カップの発見や極薄なガラス成形技術の発展が、味、香りといった飲料各々の個性を引き出すための、より機能的なグラス設計へと繋がっており、道具としても秀逸なものが多いです。
それでいてそうした一切の表層を支えるバカラ職人の熟練仕事も、深部に未だ当たり前のようにして在り続けています。ディテールに宿る気配、気高くも自然な精神に尊さを感じます。
1970年代以降になると、バカラガラスの質はガラリと変わり、工業製品的な様相もより強くなります。全ての情報が、自分の知る限りは表側に出てきていないため、推測も含みますが、含有原料の変更や成形手法の転換があったことは間違いないと思います(これには近現代化に伴うやむを得ない事情もあります)。
ごく繊細でいて、確かな差異。ほんの20年前後、過渡期的浮遊感を纏い、食空間で凛とニュートラルに佇むヴィンテージバカラ。クープランなりに見つめ掬いとる、100年前のアンティークバカラとも、現行バカラとも異なる美質。左様な見方をする人を他には知らないけれど、その魅力を共感いただけたら嬉しいなと思っています。