森林ガラスの残欠です。木灰を用いた緑がかったガラスには、特徴的な突起装飾。いずれも17世紀中葉までの作と見てよいでしょう。フェルメールが生きた時代と重なります。
右側の大きな残欠は、初期の古典的なレーマー杯のステム部です。筒型で背が高く、ブラックベリー状の突起が配されています。17世紀以降にグラスが大型化していく背景には、乾杯の場で回し飲みされ得たことなど、酒席の作法や生活様式の変化が関わっていたとされますが、残っている部分だけでもサイズ感がよく、当時の見せる器としての存在感が伝わってきます。
左側の小さな残欠には、ベルケマイヤー杯とも呼ばれる、レーマー杯の直接の前身となる器形の名残があります。ここに見える棘状(尖頭)状の突起は、15世紀頃から用いられてきたより古いタイプの装飾です。17世紀を通して、こうした棘状の突起は次第に姿を消し、ベリー状の装飾が主流になっていきます。僅かに残るボウル部分は、凸状にふくらんでいるように見受けられます。ベルケマイヤー杯には漏斗状(逆三角形に開き気味)のボウルが多いことからも、この残欠は、恐らくレーマー杯の器形が一般化するまでの併用期、ベルケマイヤー杯の括りで述べるなら後期の作です。
突起装飾は、手掴みの食事により油分のついた指で掴んだときでも滑らないようにと意図して付設したとされますが、棘状のそれは、当時の用途をより自然に理解いただける作りだと思います。
どうして残欠にこれほど惹きつけられるのでしょう。欠けた輪郭が、観る者の想像力を喚起し、手のひらの感触や酒席の気配まで呼び戻してきます。ずっと眺めていられる、不思議な吸引力が確かにあるように思います。
年代|1600〜1650年頃
生産|オランダ、或いはドイツ
寸法|小 高6.7cm/大 高9cm
