Item Note

親密な古代ローマの断片

 

古代ローマのテラコッタ断片。

実は初見では馬だと思いましたが、奉納用の雄牛像である可能性が高いようです。

材と造形の美しさは何よりですし、惹かれたのは古作の素朴な台座が残っていたことにもあります。教師や学識ある聖職者、あるいは純粋な好事家が古代の遺物を愛でること自体は、近世初期頃からはすでにあったとされます。台座はそうした文脈のなかで、おそらく19世紀末〜20世紀初期頃に仕立てられたものです。

顔も足も欠損した像。発掘品が残欠なのは自然なことですが、例えばサモトラケのニケのような大作が美術館で体現してきた劇性とは異なる、小品こそが引き継ぐことのできた親密さを感じながら、かつての所有者の視線に想いを馳せます。

近現代ヨーロッパが、芸術に纏わるあらゆる分野で「完璧な姿」を追い求めてきたことは、確かに一時代の強い潮流だったのでしょう。日本の、欠けや痕跡を抱えたまま肯定することと対比させて語られることも多いですが、それはヨーロッパでは宮廷や美術・博物館が、日本では茶の湯が、制度的に主導権を持ちやすかった、その差だけような気もします。より踏み込めば、18世紀に公開博物館という制度が成立したことで教養へのアクセスが容易になったわけで、その結果として、断片であることを想像と知識で補いながら味わう、個人的でひそやかな所有の愉しみもまた、実際には脈々と育まれてきたはずです。

もちろん、あらゆる骨董品がその可能性を持ちますが、古代の発掘品は、当時の所有者にとってもまた古物だったという気づきを得やすく、単線のタイムカプセルではない、多層の履歴として捉える思考が自然と働きます。

この種の雄牛の表現は、さまざまな素材で数多く作られており、重要な神殿や、家庭内の小さな礼拝空間などにしばしば奉納されたとされます。詳らかには判りませんが、玩具であった可能性もあるでしょう。

 


 

年代|1〜3世紀頃
生産|古代ローマ
寸法|幅15 高13cm(台座含む)

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