Item Note

強さとやさしい弱さ

 

人の造形意識の強さを想い、その美観に惹かれながら、自然な剥落を、時間が彫ったもう一つの彫刻として眺めます。近世初期フランスの木彫。

頭上と底部には穴が空いており、もともとは木彫装飾や家具、あるいは祭壇装飾の一部を構成していたものだと判ります。

恐らくはポーモーナの女神、或いはフローラやケレスという可能性もありそうです。腰前に両手で抱えているのは房状の果実や花、葉束の残欠に見えることから、豊穣や四季に関わる女性の寓意像という見立てができます。宗教的というよりは世俗的な表現です。

宗教像が救済や守護を求めたとするなら、寓意像は教養や徳、繁栄といった知の体系を司りました。住む場所が、見せる場所としての役割も担っていくようになった近世の時代。注文者は恐らく私たちが思うよりずっと真剣に、単純な趣味性ではない「意味」を、空間に対して求めたはずです。

家具や内装の一部に、解釈して使う語彙として取り入れられた神話のモチーフである女神は、見るものでありつつ、語るものとしても当時は機能したのでしょう。

同時に、長い時間を経た自然な剥落により、そうした近世の意味の装置は、今では既に中性化されつつあるようにも見えます。意味が純粋な詩になる過程。そう思えたからこそ惹かれました。

ポーモーナかもしれません。そうではないのかもしれません。複数の読みがあり得、観る者によって響きの変わる器。強さがあるから、やさしい弱さを感じます。古物から聴こえる余韻に耳を澄ませ、解きほぐすことを愉しみながら、絡みあう美しさと文脈の綾を味わいたいです。

 


 

年代|推定17世紀頃
生産|フランス

画像|1  2  3  4  Click!

Related posts

テキストのコピーはできません。