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マリー・アンヌ・モランのための…

 

1700年代のフランスより、純銀製洗礼杯。

こうした杯は、幼児洗礼に際して、生まれた子の名前やイニシャルを刻み、主には実父母ではなく洗礼父(パラン Parrain)から贈られた記念の品です。

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やがては出産の祝いとしても好まれるようになりますが、背面の工房・名刻印からも、人々の生活の隅々にまでキリスト教が根差し世界観を規定していたアンシャンレジーム下のフランスにおける、慣習が世俗化する以前の、伝統に則した品であることが分かります。

純銀器の傷や凹みの多さは、経年の長さと素材の柔らかさ故ですが、洗礼杯におけるそれはきっと、まだ指の不器用な当時のちいさな可愛い持ち主が、幾度も床に落ちてしまったことでできた、成長過程の証でもあるのだろうと想像します。

彼らはいつどんな時代であっても純真無垢です。しっとりとした手取りの柔らかさは一層愛おしく、刻まれた「マリー・アンヌ・モラン」の名を眺めているだけで、心穏やかになれるよう。

控えめにノーブルを湛えた佳品でした。

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