1800年代前期のショワジールロワ窯より。
同時代のクレイユ窯で、当時の英国人ディレクターのジャック・バグナル(バニャル)が手掛けたと言い伝えられている月桂樹文様。藍色が知られていますが、黒色は初見でした。
同様のデコレーションはジアン窯でも同時代の個体を見かけたことがあり、また北方、ベルギーのトゥルネー磁器窯に伝わり取り入れられたことでも広く知られています。
※参考:クレイユの作陶品(Click!)
所謂意匠権というのは18世紀初期フランス、リヨンの絹織物業における図案の保護に起源があると言われていますが、自分が惹かれるような民陶においてはどうだったのだろう。
カタチ(モデリング)について言えば、共有知という認識が(恐らくは)一定あり、その延長でデコレーションについても曖昧模糊と取り扱われることが多かったであろうことは、目にする器々から窺い知れます。オリジナルを手掛けたとされるジャック・バグナルすら、そのリソースを実際には本土英国のデルフト焼きに求めた可能性が高いと個人的には考えています。
指導的役割を担った陶工の窯転籍による技術伝播や、窯同士の経営統合は珍しくありませんでした。工芸は工業へと転換していきながらも、地産地消という側面が未だ残っていた時代。職人的慣例が近代化するに至ったとき、悩み変革を求めた人々がいただろうことを鑑みれば、全てを古き良きと易々とくくることはできません。それでも過渡期にしか成立し得ない淡い存在感には心惹かれ、掬いとって愛でたいと思ってしまいます。