低温焼成による軟陶のテールドピップに、上品なエナメル手彩色が施された、1800年代半ばのロンウィー窯作陶の色絵皿。
今でも「ロンウィー・エナメル (Emaux de Longwy)」の名で知られる、エナメル陶器(七宝焼き)で有名な土地、ロンウィー。その名声が広く知れ渡ることになったのは、1870年以降のことですが、こちらの器は1830〜1860年代頃、窯がエナメル彩色の技術開発に成功し、独自の作陶史を歩み始めた最初期の品です。
限られた貴族・新興ブルジョワジーを顧客にして作られていたファイアンス フィーヌの作陶文化は、1800年代後期には、産業化の波のなか、ロンウィー含むフランス全土の窯で廃れていきます。またロンウィー・エナメルはやがてその名声と共に、華美で絢爛な装飾陶器の生産が主となっていきますが、個人的には、愛らしさがありながらもどこか控えめな、この時代の意匠性と配色にこそ心惹かれます。
少し話が逸れますが、初期のロンウィーを発展させたのは、1800年代初頭に窯の経営権を創業者から買い取った、ジャン=アントワーヌ・ド・ノトームなる人物。調べてみると彼は、現在でもルクセンブルク有数の陶器会社として有名なヴィレロイ&ボッホの創業者の親戚筋だったようです。
窯元はまさにルクセンブルク、或いはベルギーとの国境付近に位置しますが、古手のロンウィーの陶器が、フランスらしいけれども、フランス中心部(クレイユ、モントロー、ジアン等)のそれとは異なる雰囲気を纏っているのは、そんな経営者の出自にもあるのかもしれません。
時代と地域の交差点でこそ生まれた窯固有の佇まいは魅力的です。
Longwy (ロンウィー)
現在は、主にロンウィー エナメル(Emaux de Longwy)と呼ばれるエナメル陶器(七宝焼き) の生産で有名な陶器窯。
1798年、ロレーヌ地方、ベルギーとルクセンブルクの国境付近、ドイツにも程近い町ロンウィーで、シャルル・レニエ(Charles Régnier)が、古い修道院の中に作陶工場を作ったのが窯の起源です。ロレーヌ地方は、リュネヴィルやサルグミンヌ等、フランスのアンティーク市場で現在も知られている複数の窯元がかつて存在し、陶磁器文化が盛んだったことでも知られている場所です。
開窯初期の1810年代には、ナポレオン戦争化でプロイセン(ドイツ軍)による市内包囲があり工場が活動停止するなど、経済的には困窮しますが、レニエがジャン=アントワーヌ・ド・ノトームなる人物に窯を売却して以後は、一族による経営を続けながら、1800年代半ばのエナメル陶器の商業的な成功や、1900年代初期のアールデコ陶器の生産等も経て、現在まで陶器の生産を続けています。
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